サクッと観れるB級ミステリとして作ればよかったのに。『ナイル殺人事件』68点
いいなと思ったのは、キャスティング。
映画に詳しいわけじゃないので、ケネス・ブラナー以外は全然知らなかった。
知らない俳優ばかりだけど、みんなちゃんと個性的で、みんないい意味で「フツー」。
これはミステリー映画にとっては重要なことで、キャストが有名すぎると謎解きの邪魔になる。
それでは華がないかもしれないが、今回はエジプトなので、ピラミッドを筆頭に絵の力はあった。そもそも、ケネス・ブラナーも地味と言えば地味だし。
どうかな・・・と思ったのは(原作は読んでいないから、わからないことも多いが)動機の弱さと、犯人が分かりやすすぎること。
明らかにオカシイ描写(船まで元婚約者が追いかけてきて、明らかにオカシイのに、それを積極的に追い出そうとはしない男とか)をみると、「あ、これは・・・」と思う。
で、そこから逆算したら、共犯者もこの人なんだろうな・・・と予想はついた。で、残念ながら予想通りの結末だった。
動機が弱いというのも、欠点だと思う。
このあたりはミステリの「古典」を、ある意味では忠実に映画化したがゆえの弱さなのかなと推測していたが、結構大胆に再解釈しているらしい。
どの部分が再解釈なのかは、やはり原作を読んでいないからわからんのだが・・・。
とにかく、もう少し、殺される側と殺す側の背景を書き込んでほしかった。
映画が選んだのは、犯人と被害者の背景ではなくて、ポワロの背景を書き込むことだった。
傷を負った復員兵としてのポワロが、最後は自らの過去と和解していた。その象徴としての「髭剃り」だったんだと理解した。
しかし、ここも実は疑問があって、今回のナイル川での殺人事件が、どのようにポワロの内面に関与したのか、やや不明確。それゆえ安易さを感じてしまった(どのように結びつくのか、ちゃんと描いてほしい。それがないと思わせぶりな、見せかけだけの「深さ」に留まる)。
それ以上に残念だったのは、エジプトが舞台である必然性が全然ないということ。
総じて、賞味期限切れの材料を現在映画化することの意義について、再考が必要だと思わせる「ビミョーな映画」だった。
興行的にも厳しいのではないか、ガラガラでした。
二時間でサクッと観るミステリとしては、ほんとうによくできていたけれど、わざわざ高い金を払って映画館で観る必要はないのかなという作品。