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あれは僕のことを書いたんですよね、と言ってくる読者が恐い 『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』 78点

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サリンジャー野崎孝訳の「ライ麦畑」と、新潮文庫の『ナインストーリーズ』しか読んでないし、それを読んだのももう20年近く前だから、ほとんど記憶がない。
俗世を嫌って隠遁し、作品の発表をやめたという伝説は知っていたけれど、「ほ~ええ身分ですな」という感想しか持っていなかった。

しかし、本作を観て認識を改めた。
さっきwikipediaを見たらしっかり記述があったので、ファンには「常識」なのだろうが、第二次大戦の従軍と、ノルマンディー上陸作戦への参加、その後のナチの掃討作戦について全く知らなかった。
また、サリンジャーは戦後にデビューした人だと思ってたが、すでに1940年には作品を発表しているのも知らなかった。教えられることが多い。

で、興味深いと思ったのは、従軍中のサリンジャーが、ホールデンの物語を頭の中で書き続けていたという描写だ。戦争の後遺症で、一時は病院に入った彼が、なかなかホールデンの物語を完成させられなかった理由も、説得的に伝わってくる。兵士として戦争を生き抜くために、サリンジャーは頭の中でホールデンを生かしたが、自分自身の戦争体験とホールデンがあまりにも強く結び付いているため、戦後になってからホールデンの物語を書こうとすると、戦争を思い出してしまうのだった。

ここでサリンジャーはインド由来の宗教から瞑想を学び、自分と向き合い、書くための精神的な準備を始める。ようやく書き上げた『ライ麦畑でつかまえて』は、一部の編集者から不評を買うが、ホールデンは彼自身と不可分である。だからサリンジャーは、描き直すこともしないし、ホールデンが狂っていると言われると、自分のことであるかのように傷つき、怒る。
なにが言いたいのかというと、この映画をみて、「戦争文学としての『ライ麦畑でつかまえて』」ということを思ったのだった。もちろん、誰かがすでに何か書いているだろうから、また本屋で立ち読みしてみよう・・・と思ってググったら、ちゃんとあった。

金原瑞人「戦争とサリンジャー」 - 白水社

もう一つ、従軍する前に付き合っていた彼女が、戦争中にあっさりチャップリンと年の差婚をしてしまい、人が信じられなくなる感じも面白かった。
厳格な父親の下で繊細な感性を守り続けたサリンジャーは、戦争体験を経て、無垢な子どもに惹かれ、汚い大人を極度に憎む作家になった。「普通」のレベルを超えた彼の創作態度は、成功後に「もう小説を出版するのを止める」とエージェントに告げるあたりの描写に、如実に表れている。
記憶が不確かだが、大体次のようなことを言っていた。「書くというのは、僕にとって祈りのようなものだから、それを商業出版で不純なモノにしたくない。だからもう出版しない」。

僕は祈るように書いたことはないけれど、芸術というのものはどこか「祈り」が入っているのかしら、などと、あれこれ夢想しながら帰った。
ブックオフに行けば村上春樹訳が安くであるはずだから、また読んでみようかな。

ちなみに、大学の創作科の講義を担当していたケヴィン・スペイシーの演技が良かった。

 

話は変わるが、4月は観たい映画が多い。

とくにこれ! 『希望の灯り

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