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「答えのある映画」と「答えのない映画」 『デトロイト』86点

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画面に緊張感がみなぎっていて、冒頭の実写シーンから「あ、これはちゃんと観ないと」と思わせる力がある。

わざわざ「冒頭の実写シーン」と書いたのは、この映画が、アニメーションによる黒人の歴史の概観から始まるからだ。

実をいうと、ここで「ん?説教くさい感じか」と身構えてしまったが、そんなことはない。でも、「そんなことある」気もする。どういうことか。

 

物語は三部構成。三部とは「デトロイト暴動の開始と登場人物紹介」「アルジェ・モーテル」「法廷劇」。

物語のハイライトは「アルジェ・モーテル」での出来事だ。犯罪的暴力を振るう白人警官のいや~な感じや、どうしようもない黒人たちの諦めの演技がものすごく上手だった。

ポイントは、ジョン・ボイエガ演じる男だろう。 彼は白人とも「うまくやっていく」ことの出来る資質があり、そうであるがゆえに、ある意味では「傍観者」として「アルジェ・モーテル事件」に遭遇する。もちろん、ひどい暴力に戸惑い、なんとか納めたいと考えているが、うまくいかない。法廷では、グロテスクな判決に嘔吐する描写もある。誠実で頭も良い彼は、白人たちがつくる現実とのなかで自分をマネジメントして生きることを選んできた。しかし、このとき、それはもう無理だと悟ったのだろう。最も心に残った場面だ。

ただ、ちょっと気になった点もある。 それは、観客たちに「答え」を提示する映画だという点だ。

この映画は誰が観ても「人種差別は悲劇しか生まない」というメッセージを持っている。それだけがこの映画のメッセージではないし、映画をメッセージだけで切る気はない(実際、画面にみなぎる力がすさまじく、監督・カメラマンは凄いと思う)。

でも、敢えて言いたい。

「人種差別は悲劇しか生まない」というのはその通りだが、それは誰もが知っている。

それが、物語を単調にしてしまっているように思う。だから二回観たいとは思わない。ある意味では「火垂るの墓」的な映画になってしまっているのではないか。

レイシストは初めからこの映画を喜んで観に来ることはないだろうし、観に来た人は自分の信念を強化して映画館を出るだろう。 でもそれって、結局、対立が強固になっただけではないの?

視点人物の一人である、「ザ・ドラマティックス」のボーカルが、最後に「白人の前で歌うのは嫌だ」と脱退して教会で歌うことを選ぶ。悲しくも力強い決断だが、彼が最後に歌う場面を観ると、白人と黒人は別々に生きましょうと言われているような気さえした(もちろん、そんな意図はないのだろうけれど)。

そうではなくて、ジョン・ボイエガ演じる男をもう少しうまく使えば、異なる印象の映画になったのではないか(事実を元にしているから大胆な改編は難しいのはわかる)。

まあ、いろいろ書いたけど、「ないものねだり」で、結局は「答えのない映画」が好きだという個人的嗜好の問題かもしれない。

白人警官のあの眉毛の印象的な人の演技、怖かった。

あの当時のデトロイトの白人警官の一部がいかにクズだったのか(実態は知らないが)、映画からは身にしみて理解できたと思う。