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問題提起とサスペンスのバランスが絶妙。『ウインド・リバー』 87点

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監督・脚本はテイラー・シェリダン。今後はこの人にも注目していくことになるだろう。
脚本家としてはすでに高名なようで、この人が脚本を手掛けた作品も時間を作って追いかけたい。ネットフィリックスに上がっている模様。

映画の舞台は、ワイオミング州ネイティブ・アメリカン保留地。
そこで暮らす主人公は、ネイティブの女性と結婚し、二人の子どもを持つが、長女が謎の死を遂げている。心の傷から、現在は別居中(離婚かもしれない)
ある日、牛を襲うピューマ(?)退治の仕事の最中に、主人公は女性の死体を見つける。
死体にはレイプされた跡があるが、死因は窒息死。マイナス30度の冷気によって肺が破裂して血が出たために窒息死したのだ。レイプされて逃げる最中に死んだものと推測される。
主人公にとっての衝撃は、その女性死体が親友の娘だったことだ。主人公の死んだ娘と、幼少期から仲良くしてくれた女の子が、無残に死んでいる・・・
ここに女性のFBI捜査官が登場し、映画はバディものの体裁をとりながら、事件の究明に向かっていく。

この映画のバランスの良さは、ネイティブ・アメリカンたちの現状をうまく取り込んでいる点にある。
周囲に目立った仕事はなく、教育を受ける場所も限られている。大学はない。
こうした町で、非行に走るくらいしかやることがない「クズ」たちの姿が、上手に取られている。
死んだ女の子の兄貴が、どうしようもない。
その兄に対して「働くこともできた、大学に行くこともできた。選んだのはお前だ」と突き放す主人公。
その兄は「お前になんか俺の気持ちがわかるか!」と言い放つが、それに対する主人公の言葉がよかった。
大意だが、「まったく平等ではないこの世界を恨む気持ちは分かる。しかし、世界と戦っても勝てない。俺は、世界を恨む自分の感情と戦うことにしたんだ」。
能天気な観客としては、いや世界と戦ってくれ!と言いたくもなるが、それはないものねだりだろう。
主人公が踏ん張って生きている姿に、打たれた。

娘を失うという体験を不幸にも共有してしまった主人公と、その親友のネイティブ・アメリカンの男性二人が、二人で座っている場面はとても良かった。
死のうと思っていた親友の男性は、死に化粧として顔にペイントをしている。顔面を青く塗って、その上から白のラインを引く化粧で、一瞬ギョッとしてしまう。
伝統的なペイントなのかなと思ってみていると、「誰も教えてくれないから自己流で塗った」と言う。
このセリフも良かった。
ユーモアと「少数民族」の伝統の断絶とが、同居している。
死のうと思っていたが、刑務所にいる絶縁した息子(上に書いたクズ)から電話があった。化粧を落としたら迎えに行こうと思う。そう語る男性の顔は、穏やかだ。
喪失と、ほんの少しの回復が、丁寧に追われていると感じた。
やはり脚本が良いのだ。

任侠映画的構造で、最後はしっかりと復讐をやり遂げるのも、好きな点だ。。
犯人たちはほんとうにクズであり、観客としてはもっと痛めつけて欲しかった気もする。
こう書いてしまうと、僕自身がダメ人間だということになるかもしれないが、個人による復讐の暴力はフィクションが持つ魅力だと思うから。

 

キネマ旬報』という広告収入頼みの映画PR雑誌があるが、そこでの評価は次のような感じ。
五つ星評価で、星5つが一人、星3つが二人。
星三つってことはないと思うが、謎の伝統だけしか誇れるものがないクソ雑誌なので仕方がない。
当然立ち読みで済ませる。
『映画評論』を確認したかったが、本屋にはないのであった。
大きな本屋に立ち寄っても、読みたい本がないのが悲しい。古本屋が楽しい。