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短編小説のマスターピースのよう 『ムーンライト』83点

トーリーを要約しても、ほとんど意味がない映画だと思う。

「黒人社会における同性愛を描いた青春純愛映画」としか言いようがないが、そうまとめたところで、この映画の良さは伝わらない。

強度のある物語構造だから、俳優たちが展開する細かい表情やしぐさを存分に堪能することができた。
脚本、とくにセリフが素晴らしかった。
最後の最後にシャロンがいう言葉も良かったが、忘れがたいのは、第二章でシャロンとケヴィンが浜辺で語り合う場面。
ここでのケヴィンのセリフがとても良かった。10代のヤンチャな若者が、そんな抒情的なことを言うだろうかという疑問がわいたが、帰宅後ネットで調べて納得した。この映画、原作が戯曲なのだそうだ。

「ああ、このときに本があれば、もう少し救われたのに!」と、本のことを考えた場面があり、そもそも映画で本のことを考えることが稀なので、新鮮だった。
それは、第二章で、母親(麻薬中毒)が客をとっているから家に帰れず、ただ無為に電車に乗るシャロンを移す場面だ。
シャロン! 学校の図書館で本を二・三冊借りてカバンに入れてくれ」
と祈るように観ていた。
そこで本を読んでも、問題の根本的な解決にはならないが、問題の受け止め方が少しは変わるかもしれないから。

ただ、音楽の歌詞で説明させる方法は、やりすぎかと思った。
アレサ・フランクリンの「one step ahead」が二回流れるが、第三章で大人になったシャロンがケヴィンに会いにいくときに流れる「one step ahead」は、なんだか説明しすぎな気がした。
その後、ケヴィンがジュークボックスでかける曲も、笑いそうになった。
しかし、そこにケヴィンの切実さが込められているのは明白で、二人のシリアスな視線からはギャップがありすぎるポピュラー音楽の選択は、製作者たちが悩んで辿り着いた結果なのだろう。

忘れがたい映画になった。